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アルツハイマー病の創薬に新たな希望

New Hope with Alzheimer's drug discoveries

Alzheimer's Disease Associationによると、アルツハイマー病を患う米国人は620万人近くに上ります。世界保健機関(WHO)は、全世界で5,500万人が認知症を患い、うち約60~70%(3,300~3,900万人)がアルツハイマー型認知症であると報告しています。数え切れないほどの家族が、何らかの形でこの恐ろしく悲劇的な病気による影響を受けています。

新たな抗アミロイドβ抗体治療薬
近年、アミロイドタンパク質を標的にしたモノクローナル抗体治療薬の開発により、アルツハイマー病の研究は大きく進展しています。脳内におけるアミロイド凝集/斑の形成とアルツハイマー病の進行は相関しています。アミロイドβタンパク質の沈着により、脳内細胞間情報伝達が断絶され、脳細胞死をもたらす炎症を引き起こされると考えられています。抗アミロイドβ抗体の創薬研究が、ここ数年、大きな注目を集めています。

以下に、アルツハイマー病治療薬の研究分野の初期における成果と最近の著しい進歩について、いくつか説明します。これらの研究は、ガンテネルマブ(Roche社とGenentech社)2などの治療薬の開発につながりましたが、その多くは患者様の認知機能低下の遅延を実証できず、臨床使用に至りませんでした。

抗アミロイドβ抗体薬の開発は、開始当初は期待されていたほど進展しませんでしたが、最近になってアミロイドβ/A4タンパク質を標的とする抗体薬が有望視されており、FDAの迅速承認を受けています。

初期のアルツハイマー病治療薬の進展:アデュカヌマブ(Aduhelm)
アデュカヌマブ(米国製品名:Aduhelm、Biogen社)・ガンテネルマブ・BAN2401などの抗アミロイドβ抗体薬は、可溶性・不溶性のアミロイドβ凝集体に結合します。アデュカヌマブは、ヒト血液リンパ球に由来するヒト型リコンビナント抗体で、FDAから「迅速承認」を受けました。最初はある程度の効果が期待されていましたが、アルツハイマー病における認知機能低下の抑制効果については、さらなる評価が必要です。また、脳浮腫(ARIA-E、浮腫/滲出)や脳出血(ARIA-H、微小脳出血)などの有害事象も確認されており、さらに評価する必要性があります。

最近のアルツハイマー病治療薬の研究における大きな発展:レカネマブ
初期に開発された抗アミロイドβ抗体治療薬の多くは、重大な副作用(毒性・脳浮腫・脳出血など)があり効果も限定的なため頓挫しました。しかし、新たに承認されたレカネマブは有望です。

レカネマブは、アミロイド抗体がアルツハイマー病患者の認知機能低下を有意に遅延することが臨床試験で示された初めての治療薬であるため、その開発には、重要な意味があります。レカネマブは比較対照臨床試験で認知機能の低下を27%遅延したと報告されています。2023年1月上旬に、レカネマブは、早期アルツハイマー病に対する迅速承認をFDAにより受けました。しかし、薬剤に関連した安全性の懸念事項がいくつか残ります。

Biogen社とEisai社が開発したレカネマブは、アミロイドβ/A4タンパク質を標的とする抗体薬です。同薬はアミロイドβプロトフィブリルに結合する、抗アミロイドβプロトフィブリル ヒト型モノクローナル抗体です。

アルツハイマー病の創薬は、これまで、他の疾病に比べて遅れをとっていました。しかし、ChemDraw®のようなケミカルコミュニケーション ソフトウェアがあれば、研究が加速し、健康状態を改善する薬剤の上市を促進できます。

アルツハイマー病治療薬の研究におけるChemDraw/Chem3D/HELM/Biologics Visualizationの活用
PerkinElmer Informaticsが提供するChemDrawとChem3Dによって、抗体-ペプチド間相互作用の検討・研究を促進し、抗アミロイド抗体薬の開発を強化できます。生体分子の化学構造表示にHELM(Hierarchical Editing Language for Macromolecules)表記法を導入することで、修飾ペプチドをChem3Dによる分子ビジュアライゼーションと共にChemDraw内に表示できます。

小分子や配列情報の大きさ・複雑さをソフトウェアで手書きするのは、多くの場合、非実用的でしょうが、HELM表記法を用いれば、タンパク質配列や塩基配列のように考えることができます。ソフトウェアで、その配列を原子や分子に変換して、3次元レンダリングを作成します(下図を参照)。

実際の3次元構造を簡単にビジュアライズ
アミロイドβタンパク質/ペプチドと抗体(レカネマブ)の結合に関する化学構造情報は、まだグローバル蛋白質構造データバンク(PDB)に公開されていません。しかし、アミロイドペプチドに関連した他の抗アミロイドβ抗体薬であるガンテネルマブ(PDB:5CSZ)やアデュカヌマブ(PDB:6CO3)などに関する化学構造情報は入手できます。

アデュカヌマブの構造は、蛋白質構造データバンクで入手できます(PDB:6CO3 aducanumab antibody - amyloid beta peptide complex)。この構造をPerkinElmer Informaticsのソフトウェア Chem3Dで表示したものを以下に示します。アデュカヌマブは、アミロイドβペプチドの線状エピトープと結合します。このエピトープは、3~7個のアミノ酸で形成されているアミロイドβペプチドです。

図Aは、アミロイドβペプチドと結合した抗体Fab領域全体の構造です。

図Bは、アデュカヌマブ抗体Fabフラグメントとアミロイドβペプチド間の結合面、さらにアミロイドβペプチドとの相互作用の細部です。

下図に示すように、ガンテネルマブ(PDB:5CSZ)など他の類似の抗体には、異なるアミロイドβペプチドとの結合様式があります。

そのエピトープペプチドに結合したアデュカヌマブFabフラグメントの結晶構造の解析により、アデュカヌマブはアミロイドβペプチドのN末端に結合することが示されました。アデュカヌマブは、抗体表面上の浅いポケットで小さく固まったエピトープを結合します。

これらの図に示すように、アデュカヌマブ抗体と結合しているこの有効なアミロイドペプチドは、他の有効性の低い抗体(ガンテルネルマブ)と結合しているペプチドとは異なります。

アデュカヌマブは伸長構造のコンフォメーションでアミロイドβ残基に結合するため、結合したペプチドのコンフォメーションと配向は、アミロイドβのN末端ペプチドエピトープを認識する他の抗体とは異なります。アミロイドβペプチドの2~7残基が、伸長構造のコンフォメーションでアミロイドβペプチドのPhe 4残基・His 6残基と結びついたアデュカヌマブ抗体と結合して、抗体フラグメントと最初の接触を行います。

ペプチド・タンパク質・抗体の各配列を、Signals Notebook™内ですべて実際に操作し、実験計画のために保存できます(下図)。PerkinElmer Signals Notebookプラットフォーム(Signals Notebook/Vitro Vivo™/Inventa™)では、修飾した抗体・ペプチドの設計・合成・製造工程・製造手順・動物試験・アッセイ結果の経過を記録できます。

PerkinElmer Signals PlatformでChemDraw HELMフォーマットを使用して、抗体薬やバイオ医薬品の開発を効率的に進める方法をご覧ください。

お役立ち情報

(1) Structural and kinetic basis for the selectivity of aducanumab for aggregated forms of amyloid-β Joseph W. Arndt, Fang Qian, Benjamin A. Smith, Chao Quan, Krishna Praneeth Kilambi, Martin W. Bush, Thomas Walz, R. Blake Pepinsky, Thierry Bussière, Stefan Hamann, Thomas O. Cameron & Paul H. Weinreb. Scientific Reports, (2018) 8:6412, DOI:10.1038/s41598-018-24501-0

(2) Gantenerumab: A Novel Human Anti-Aβ Antibody Demonstrates Sustained Cerebral Amyloid-β Binding and Elicits Cell-Mediated Removal of Human Amyloid-β Bohrmann, Bernda;, Baumann, Karlheinza , Benz, Jörga , Gerber, Francoisea , Huber, Waltera, Knoflach, Frédérica, Messer, Jürga , Oroszlan, Krisztinaa, Rauchenberger, Robert, Richter, Wolfgang F., Rothe, Christineb, Urban, Margitb, Bardroff, Michael, Winter, Michaela, Nordstedt, Christera, Loetscher, Hansruedia. Journal of Alzheimer's Disease, vol. 28, no. 1, pp. 49-69, 2012

(3) Lecanemab Confirmatory Phase 3 Clarity AD Study Met Primarily Endpoint, Showing Highly Statistically Significant Reduction of Clinical Decline in Large Global Clinical Study of 1795 Participants with Early Alzheimer’s Disease. News release. Biogen; September 27, 2022. Accessed November 2, 2022. https://investors.biogen.com/news-releases/news-release-details/lecanemab-confirmatory-phase-3-clarity-ad-study-met-primary

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レイチェル J. ビエンストック 博士(Rachelle J. Bienstock, Ph.D.)
Signals Notebook プロダクトマーケティング マネージャー

ビエンストック博士は、Signals Notebook プロダクトマーケティング マネージャーとして、Revvity Signals Softwareチームに加わりました。Revvity Signals Softwareに入社する前は、学術機関・民間企業・政府機関で、計算化学・SBDD(構造情報に基づく薬物設計)・生体分子の分光学的研究を経験しました。University of Michigan Ann Arbor校で物理化学の博士号を取得しています。